いつか同じ道を帰るひと
名前変換版はこちら→https://privatter.me/page/68316acf81ac3
※外部サイト(プライベッター)へ遷移します。
金青町雑屋日録のセルフ二次創作です。フウライ×主
(二次創作でありゲームの正式な続きではありません)
この文には以下の成分が含まれています。苦手な方はご注意ください。
・ゲーム本編で恋愛関係にないキャラクターとの恋愛要素
・プレイヤー(主人公)の自我(かぎかっこでは話しません)
その他、読後合わなかったとしてもご容赦ください。
=============
空にはかもめが飛んでいる。
海にはトビウオが跳ねた。
本当にトビウオだろうか……? 羽のようなものがあったから多分、トビウオだろう。
「どうしました」
静かな男は静かに尋ねた。釣り糸はピクリとも動かないまま、もうずいぶん時間が経った。
トビウオがいた、と報告すると、男は目元を緩めた。
「そいつは多分シロハネですね」
ヒナタがきょとんとしていると、フウライはその視線に気がついて「ああ、」と付け加えた。
「ナダレウオ、でしたっけ。そういう名前で出回ってたはずです」
その名前を聞いてヒナタもようやくピンときた。細長い白身魚だ。たしか、これまでフウライが差し入れてくれた中にも混じっていたと思う。
「網漁なら春には獲れすぎるくらいです。ま、美味い上に干物にもしやすいんで、海のお恵みってところですね……船があれば群れのところまで行けそうかな」
たしかに、ナダレウオの干物はよく見かける。
海沿いを歩くと時々きらりと光る魚が飛んでいるが、あの魚だったか。
「その『光るやつ』はトビウオですね」
……そうですか。ヒナタは口を尖らせた。フウライがふ、と笑う。
このところ、フウライの表情はずっと柔らかかった。
✕
フウライは例の事件の数年後に釈放された。
事情通の友人に聞いたところでは、カガチ組の情報をエサに取引すればもう少し早く出られたものを、提案を呑まなかったらしい。
それでもふつうより早く刑期を終えられた理由は、被害者たちの情報を正確に流し、そのうち幾人かはすでにフウライの手で金青町の地を再び踏んでいたからだろう。
ヒナタは断ずる立場にない。ただ友人として彼の帰りを待ち、頼まれて船を売り、その金で彼の住んでいた小屋を整えて過ごした。
面会室で会うたび「また来たんですか」と呆れていた男が、突然ヒナタの家を訪ね「また、どうぞよろしくお願いします」と深々頭を下げた日。彼の少しばかりやつれた顔を見てヒナタは思わず抱きしめた。らしくない無精髭の感触も記憶に残っている。その後戸惑うフウライをほっぽってムメイを呼びに行ってしまったので、出所したばかりで腹ペコのフウライをしばらく玄関に立ち尽くさせてしまったのも今となっては思い出だ。ヒナタが戸を開けっ放しで走って行ってしまったので、フウライはそのまま帰ることもできずにいたらしい。
その後はただのんびりと交流を重ねた。ヒナタは休みに海辺を散歩することが多い。意図せずばったり出会うこともある。そういう日にはよくフウライの小屋で焼き魚をご馳走になったりもした。
彼が罪を濯いでいるあいだに魚を焼いたことは何度もあったが、彼の手腕はヒナタの比ではないようだ。何が違うのか、フウライが七輪を使って魚を焼くと炭火の香ばしさが際立つ。「火力でしょう」フウライは何でもないように言い放ったが、到底それだけとは思えなかった。
今日も今日とて、ばったりの流れで彼の磯釣りに付き合い、できればこの後ご相伴に預かろうというハラである。相変わらず人の少ない海岸には、フウライとヒナタの二人きりしかいない。
「ヒナタ。最近変わったことはありますか」
以前、フウライがこうやってなんとか話題を作ろうとしてくれたことを思い出した。
そんな気遣い屋さんを特別楽しませられるような新奇な話題はない。相変わらずムメイと商売を続けていて、強いていえば最近は薬草の売れ行きもいい、というくらいか。
「元から品質は良かったんですから。きっと、認められたんでしょう」
ピクリとも動かない釣り糸を、フウライはおもむろに引き上げた。餌が食われている。フウライにしては珍しい失態だった。
チッ、とひとつ舌打ちをして餌を括り直し、また遠くへ竿を振って腰を下ろす。
フウライさんは? と尋ねると、フウライはちらりと視線を向けてすぐに海へ戻した。
「オレの方は相変わらずです。船を売っちまったんで稼ぎは減りましたが、食うには困りませんし」
それに、と遠くを眺めながら付け加える。
「アンタが小屋を守ってくれてたんで、路頭に迷うこともありませんでした」
フウライが船を売ってほしいと頼んだおり、実は彼の小屋も売るなりなんなり自由にするように言われていた。釣り道具なんかをすべて売ればひと財産にはなる。その金をムメイと二人で分けろとも。
彼の性格上、逃げるだとかそんなつもりはなかったはずだ。ただ罪を償ったあとはまた一から始めようと、そう考えていたに違いない。
しかし、その言葉を伝えるとムメイは激怒した。激怒した勢いで山を三周はしただろう。四周だったかもしれない。やっと帰った頃にはちゃっかり背負っていた籠に薬草がこんもり。そうして息を切らして戻ってきたあと、無表情で言い放った。「バカ!!!!!!」。
ヒナタはなんだかこういう激怒したあとにひた走る話を知っている気がしたが、ともかくムメイの言葉に同意した。小屋は売らず、ただ彼が最後にしていたままにすべてを残していた。
結果としてフウライは「仕方ないですね、アンタたち」と呆れた顔をしながらもムメイとヒナタの気持ちを受け入れてくれたのだ。
「セージツなつもりでビンボーになったって、なんにも解決しないんだからさ」
ビンボーを経験した先輩からのありがたい言葉である。
カモメはずっと沖の方を飛んでいる。
なかなか釣れないですね、とヒナタがつぶやくとフウライは渋い顔をした。
「海に嫌われちまったのかもしれません」
まさか、とヒナタは首を振った。フウライが不漁に遭遇しているのを見たことがない。少なくとも魚の仕入れが少なくて困ったことはなかった。海に変わりがないのなら原因ははっきりしている。
「……オレか」
ため息。フウライがこうして苛立ちを露わにするのは珍しい。船を持たない生活が思いのほか辛いのだろうか。そう思って尋ねると、フウライはいやいや、と自嘲気味に笑った。立ち上がって釣り竿を上げて、また餌を取られていることに気付く。ガシガシと巻いたタオルの上から頭を掻いた。
「オレはただ、」
ふ、とヒナタの視界に影がさす。至近距離でフウライは痛むように目をそらし、一瞬のためらいのあとで軽くついばむように唇をあわせた。
「釣れて、食って、腹いっぱいになったら、アンタとっとと帰っちまうでしょう」
はく、と息が漏れる。突然の事態についてこられない心とは裏腹に、頬は一瞬で熱くなった。
な、なにを、と囁くように尋ねる。しばらく、波のさざめきばかりがその場に響いた。
「あぁもう……こんな風に勝手に、その、触っちまってすみません。本当に。でもアンタ、全然気づかなくて」
そう言いながら、慣れた動作で釣具をあっという間に片付けてしまった。今日はもう店じまいにするのだろうか。
「アンタのせいみたいな言い方しちまったな。そうじゃなくてオレが言えてないんですが。でも、アンタと静かに過ごす時間が好きで、ずっとこうしていたいというか、あー、その、」
ヒナタは黙って聞いていた。寡黙に見えて口数の多い釣り人は、へどもどしながらも確かに一つの結論に歩みを進めていく。
「つまりその、アンタのことが、好きなんです。オレ」
またしても沈黙が落ちる。
ヒナタは赤面しつつ小さく頷いた。是を返す。
フウライは目を見開いてヒナタの両腕を掴んだあと、掴む力の強さにハッと気がついて手を離した。
「わ、悪い、オレまた――いや、あの、今のって」
ガシャン、と釣具が大きな音を立てた。「痛って!」足をおさえて飛び上がる。フウライがこれほど動揺するのは珍しい。今日は珍しい日だ、とヒナタは笑った。
ぶつかってしまった釣具の収納箱を丁寧に片付けてから、フウライは口を開いた。
「ええと……このあとオレの家、きませんか。……サカナ、今日は無いですが」
きょとん、としたヒナタの手をごつごつとした指が包み込む。熱い手のひらだった。
「アンタとまだ一緒にいたいんです」
ヒナタはまた頷いた。フウライの顔にぱっと喜色が広がって、それから「あっ」と頭に被ったタオルで目元を隠そうとした。結び目がはらりと解けただけに終わったが。
「……何もしないよ。飯食って、話して、夜になったら寝るだけです、ほんとに、その変なことは……」
歯切れの悪い様子にその顔を覗き込むと、潤んだ琥珀色の瞳が落ち着きなく左右に逃げた。
「オレ、待てるんで……」
何を、とも何が、とも言わなかったが、お互いに赤面して黙り込む。仕方なし、ヒナタはフウライの手を取って歩き出した。からっぽの魚籠を土産にフウライの小屋へ向かう。
もうあの場所への道は、とっくに覚えてしまっているのだ。
==========
フウライは罪の意識がデカいので主人公からグイグイいかないと恋愛関係にはならないかもねと思ってたんですが、意外とグイグイ来る方だったみたいですね(そうですか)